はらっぱ 小話
ブログで書き散らした小話やワンライのログなど。 夢っぽかったり日常的ぽかったり。
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全力で姉*ネクタイ
10月頭はまだ秋というには少し暑い。稲実は前後期制なので、今週末に前期が終わる。ちょうど学期末で授業は昼までだ。最寄りの駅から歩くと、何人もの生徒たちとすれ違った。
私は校舎ではなく、野球部の専用グラウンドの方へと向かう。近づくにつれて、まだ練習前なのに球児たちの声が聞こえてくる。時折すれ違う野球のユニフォームを着た部員たちは、ちわっと大きな声であいさつをして走っていく。まれに、あれって顔して私の顔を二度見する部員もいる。似てる、とは言われてるし、敏い子は気づくのかも。
「あ、鳴のお姉さん! ちわっす!」
横道から突然出てきたのは翼くんだ。翼くんは鳴とシニアで一緒だったから、私のこともよく知っている。
「こんにちは」
「どうしたんスか?」
「母がね、ぎっくり腰になっちゃって、代わりに三者面談にきたの。あの子、呼んでもらっていい?」
はいっと気持ちいい返事をして、グラウンドの方に駆けていく。あ、写メ撮らせてもらわなきゃ。たまたま見せた鳴の写真に写っていた翼くんが、かっこかわいいと課の女の子たちに大人気なのだ。
「ぎっくり腰ってまじー」
グラウンドから出てきた鳴の第一声がこれだ。だらしなく制服のシャツがズボンから出ている。
「ちゃんとして」
鳴のシャツをズボンの中に入れようとすると、やめてよと払われる。
「じゃあ、ちゃんと着なさい」
「へーへー」
めんどくさいといわんばかりの返事でズボンの中にシャツを入れる。この子、他の子たちみたいに、他の保護者にちゃんと挨拶できてんのかしら。ちょっと心配になる。
「鳴? 何してんだ」
聞き覚えのある低い声が後ろからする。雅くんだ。
「こんにちは」
「ちわっす。三者面談か」
「そー。行ってくる」
相変わらず雅くんにタメ口だし。
「雅くん、いつもコレの面倒ごめんね」
「いえ」
「キャプテンになったんだよね。頑張ってね」
「っス」
愛想はないけれど、誠実さを感じるからか、保護者に雅くんは人気がある。私に頭を下げるとグラウンドの方へと向かっていった。そういえば、今、雅くんはネクタイしてたけど…。鳴を見ればネクタイをしていない。
「鳴、ネクタイは」
「えー、いらなくない?」
「…ちゃんとして」
そういうとズボンの後ろのポケットからくちゃくちゃにしたネクタイを出してきた。
「やだー、何これ、くっちゃくちゃじゃない」
「そりゃくちゃくちゃになるよ。だって尻に敷いてたんだもん」
もん、じゃないっていうの。まったく呆れる。ポリエステルだし、すぐに戻るけど、一応、強く伸ばしておく。ほんと世話がやける。普段どうしてるんだろう。
「ほら、かがみなさい」
「へーい」
鳴が私の方に頭を下げたので、ネクタイをかける。かけきる前に鳴は頭を起こした。
「ちょっと、早いよ」
「もー、自分でできるから」
私の手からネクタイを奪うように取ると、手慣れた手つきでネクタイを結んだ。結んだけど…、へたくそすぎて言葉を失った。高校生のネクタイってこんなもんだったっけ。普段、オフィスで見てるスーツ姿とはかけ離れたネクタイにため息が出た。
「へたすぎ」
「なっ! 悪かったね」
機嫌を損ねたのか、鳴はふくれっ面で横を向いてしまった。
「ほら、こっち向いて」
「やだっ」
こうなったら何を言っても私の方は向かないだろう。小さい頃から変わらない。なので、私はすぐに自分から鳴の正面に回った。向くの向かないだので時間を消耗する気はない。
手を伸ばすと、特に抵抗はしない。してもらって当然だと思っているのだ。そして私も当然のように鳴のネクタイを整える。長さからおかしいから、結局は最初からだ。シュルシュルと長さを整えて結んでいく。
「彼氏にもしてやってんの?」
鳴からそんな言葉が出るとは思ってもいなくて、驚いて、見上げた。
「できたんでしょ、彼氏」
「何で、知ってるの?」
「オレがさー、甲子園で頑張ってる間に彼氏作っちゃうんだもんなー」
そっぽを向いて、わざと大きな声で言う。というか、叫んでる。グラウンドの中にいる部員たちがチラチラとこっちの様子をうかがった。恥ずかしいったらない。ぐいっとネクタイを引っ張って制止する。
「甲子園終わってからだから」
「アプローチはその前からされてたんでしょ。ほんと大人ってヤダヤダ。かわいい弟が暑い中、頑張ってたのに。最後はツライ目にもあったのに」
ぶちぶちと、文句をたれる。図体ばっかり大きくなってもこういうところは本当に変わらない。その様子がかわいくて、やきもちやいてくれているのもうれしくて、顔がゆるんでしまう。
「妬いてるんだね。そうか、まだまだお姉ちゃん大好きなんだねー」
本心だけど、冗談を言うように、さっきのお返しとばかりに大きな声で言う。鳴はぎゃって変な声を出した。
「シスコンじゃないからね!!」
図星だったのか、恥ずかしそうにプンスカしながら先を歩き出す。後ろ姿はすっかり男の背中のくせに。まだまだ中身はかわいい子供だ。その背中に駆け寄って、腕に抱きついた。
「もう、自分がブラコンなんじゃん!」
「そうだよー。かわいい鳴ちゃん大好き」
抱きついた腕にぎゅっと力をこめると、もー、なんてくちびるをとがらせながも振り払いはしない。教室まで、久しぶりにかわいいかわいい弟と束の間のデート。
---------------------------------
翼くんがシニアで一緒っていうのは私の中で不動の設定です(笑)
シニアで一緒だったからクン呼びなんじゃないかなって思ったのです。
通知表に「1」があって、青ざめるお姉さんに
「エースナンバーだからね、もらって当然」なんて言って、ひじ鉄くらうといいです(笑)
たぶん成績はよくない。きっとよくない子だと思います。
私は校舎ではなく、野球部の専用グラウンドの方へと向かう。近づくにつれて、まだ練習前なのに球児たちの声が聞こえてくる。時折すれ違う野球のユニフォームを着た部員たちは、ちわっと大きな声であいさつをして走っていく。まれに、あれって顔して私の顔を二度見する部員もいる。似てる、とは言われてるし、敏い子は気づくのかも。
「あ、鳴のお姉さん! ちわっす!」
横道から突然出てきたのは翼くんだ。翼くんは鳴とシニアで一緒だったから、私のこともよく知っている。
「こんにちは」
「どうしたんスか?」
「母がね、ぎっくり腰になっちゃって、代わりに三者面談にきたの。あの子、呼んでもらっていい?」
はいっと気持ちいい返事をして、グラウンドの方に駆けていく。あ、写メ撮らせてもらわなきゃ。たまたま見せた鳴の写真に写っていた翼くんが、かっこかわいいと課の女の子たちに大人気なのだ。
「ぎっくり腰ってまじー」
グラウンドから出てきた鳴の第一声がこれだ。だらしなく制服のシャツがズボンから出ている。
「ちゃんとして」
鳴のシャツをズボンの中に入れようとすると、やめてよと払われる。
「じゃあ、ちゃんと着なさい」
「へーへー」
めんどくさいといわんばかりの返事でズボンの中にシャツを入れる。この子、他の子たちみたいに、他の保護者にちゃんと挨拶できてんのかしら。ちょっと心配になる。
「鳴? 何してんだ」
聞き覚えのある低い声が後ろからする。雅くんだ。
「こんにちは」
「ちわっす。三者面談か」
「そー。行ってくる」
相変わらず雅くんにタメ口だし。
「雅くん、いつもコレの面倒ごめんね」
「いえ」
「キャプテンになったんだよね。頑張ってね」
「っス」
愛想はないけれど、誠実さを感じるからか、保護者に雅くんは人気がある。私に頭を下げるとグラウンドの方へと向かっていった。そういえば、今、雅くんはネクタイしてたけど…。鳴を見ればネクタイをしていない。
「鳴、ネクタイは」
「えー、いらなくない?」
「…ちゃんとして」
そういうとズボンの後ろのポケットからくちゃくちゃにしたネクタイを出してきた。
「やだー、何これ、くっちゃくちゃじゃない」
「そりゃくちゃくちゃになるよ。だって尻に敷いてたんだもん」
もん、じゃないっていうの。まったく呆れる。ポリエステルだし、すぐに戻るけど、一応、強く伸ばしておく。ほんと世話がやける。普段どうしてるんだろう。
「ほら、かがみなさい」
「へーい」
鳴が私の方に頭を下げたので、ネクタイをかける。かけきる前に鳴は頭を起こした。
「ちょっと、早いよ」
「もー、自分でできるから」
私の手からネクタイを奪うように取ると、手慣れた手つきでネクタイを結んだ。結んだけど…、へたくそすぎて言葉を失った。高校生のネクタイってこんなもんだったっけ。普段、オフィスで見てるスーツ姿とはかけ離れたネクタイにため息が出た。
「へたすぎ」
「なっ! 悪かったね」
機嫌を損ねたのか、鳴はふくれっ面で横を向いてしまった。
「ほら、こっち向いて」
「やだっ」
こうなったら何を言っても私の方は向かないだろう。小さい頃から変わらない。なので、私はすぐに自分から鳴の正面に回った。向くの向かないだので時間を消耗する気はない。
手を伸ばすと、特に抵抗はしない。してもらって当然だと思っているのだ。そして私も当然のように鳴のネクタイを整える。長さからおかしいから、結局は最初からだ。シュルシュルと長さを整えて結んでいく。
「彼氏にもしてやってんの?」
鳴からそんな言葉が出るとは思ってもいなくて、驚いて、見上げた。
「できたんでしょ、彼氏」
「何で、知ってるの?」
「オレがさー、甲子園で頑張ってる間に彼氏作っちゃうんだもんなー」
そっぽを向いて、わざと大きな声で言う。というか、叫んでる。グラウンドの中にいる部員たちがチラチラとこっちの様子をうかがった。恥ずかしいったらない。ぐいっとネクタイを引っ張って制止する。
「甲子園終わってからだから」
「アプローチはその前からされてたんでしょ。ほんと大人ってヤダヤダ。かわいい弟が暑い中、頑張ってたのに。最後はツライ目にもあったのに」
ぶちぶちと、文句をたれる。図体ばっかり大きくなってもこういうところは本当に変わらない。その様子がかわいくて、やきもちやいてくれているのもうれしくて、顔がゆるんでしまう。
「妬いてるんだね。そうか、まだまだお姉ちゃん大好きなんだねー」
本心だけど、冗談を言うように、さっきのお返しとばかりに大きな声で言う。鳴はぎゃって変な声を出した。
「シスコンじゃないからね!!」
図星だったのか、恥ずかしそうにプンスカしながら先を歩き出す。後ろ姿はすっかり男の背中のくせに。まだまだ中身はかわいい子供だ。その背中に駆け寄って、腕に抱きついた。
「もう、自分がブラコンなんじゃん!」
「そうだよー。かわいい鳴ちゃん大好き」
抱きついた腕にぎゅっと力をこめると、もー、なんてくちびるをとがらせながも振り払いはしない。教室まで、久しぶりにかわいいかわいい弟と束の間のデート。
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翼くんがシニアで一緒っていうのは私の中で不動の設定です(笑)
シニアで一緒だったからクン呼びなんじゃないかなって思ったのです。
通知表に「1」があって、青ざめるお姉さんに
「エースナンバーだからね、もらって当然」なんて言って、ひじ鉄くらうといいです(笑)
たぶん成績はよくない。きっとよくない子だと思います。
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