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はらっぱ 小話

ブログで書き散らした小話やワンライのログなど。 夢っぽかったり日常的ぽかったり。

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伊佐敷くん&メイちゃん*末っ子長男

駅前のコンビニの前に見覚えのあるヤツがいる。

稲実の成宮だ。何だってこんなところに、そう思って見ていると、向こうもこっちに気が付いた。くそ生意気だとは聞いているが、一応、オレに向かってぺこっと頭を下げた。オレもあごを出すように応える。

「こんなとこで何しんてんだ」
「病院の帰りだけど」

病院、と聞いて、オレの表情が一瞬変わったの気づいたのか、すぐさま成宮はつけたした。

「ばーちゃんが入院してさ」
「そっか、そりゃ大変だな」

どこの病院か知らないが、だからって何でこんなとこにいるんだ。そう思ったとき店から女の人が出てきた。

「鳴ちゃん、ダッツのイチゴあったよ」

コンビニの袋を下げてにこにこと寄ってくる。

「えー、オレ、ガリガリくんがよかったのに」
「だって、ダッツのイチゴ好きでしょ」
「そうだけど」

と、成宮はくちびるをとがせてコンビニの袋の中をガサガサと漁った。

「買ってきてよ。ガリガリくん」
「ポタージュ味しかなかったよ?」
「いいの! それで! ほら、早く買ってきてよ」

横柄な態度の成宮に怒ることもなく、その人はコンビニへと急いで戻っていく。

たぶん、あの女の人は成宮のお姉さんだろう。

「姉ちゃんだけど、何」

オレの視線に気づいたのか、成宮は憮然とした口調だ。

「いや、いい姉ちゃんだなと思ってよ」

全くこれは本心だ。オレの姉ちゃんたちなら、オレに買い行かせて、且つ文句を言うだろう。そう、今の成宮のように。

「年離れてるからさ、オレに甘いんだよね」

ほんと困るよなんて笑う。おいおいおい。オレん家も年離れてるはずなんだけどな。なんだこの違い。どこで違いが出るんだ。

「オレのとこも上は6つ離れてんだけどな」
「へぇ。伊佐敷さんも姉ちゃんいるんだ。うちは二人とももうちょっと年いってるけど」

そう言いながら、あれだけ文句を言っていたダッツのイチゴを食べ始める。

「うちは下の姉貴は2こしか変わんねぇからなー」
「二人いるんだ。一緒じゃん。弟って苦労するよね」

成宮はくったくなく、へへっと笑う。いや、オレの苦労は成宮の苦労なんかとは比べ物にならない自信がある。

そこへ成宮のお姉さんが戻ってきた。袋を2つ持っている。

「もう、鳴ちゃん、お友達ならそう言ってくれたらいいのに。中から見て、お話してるからあわてちゃったじゃない」

オレにコンビニの袋を一つ差し出しながら、成宮のお姉さんは笑った。

「いつも鳴がお世話になってます。これ、よかったら食べてね」
「あ、いや、オレは…」
「この人、青道の3年だから」

そう口をはさみながら、成宮はアイスのスプーンを口にくわえたまま、もらっときなよって顔をする。

「せっかく買ったし、遠慮しないで」
「あ、あざっす」

頭を下げる。成宮はもう一つの袋を覗き込んで、満足そうな顔をする。

「ほら、早く寮まで送ってよ」
「鳴ちゃんがアイス食べたいって言ったんじゃない」

そんなお姉さんの言葉はまるっと無視して、じゃあねーと、オレに手をふって、成宮は止めてあった車の助手席に乗り込む。お姉さんはオレににっこりと笑って頭を下げると運転席に乗り込んだ。

その車を見送って、世の中って不公平だよなとオレは思った。

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メイちゃん&さっちゃん

「ねぇ、ちょっと、青道のマネさん!」

その言葉に振り向くと、今日の練習試合の相手だった稲実の成宮くんとカルロスくんが立っていた。

「何か」
「あっ、ブスマネだった」

私を指さして、さらりと成宮くんは言った。後ろでカルロスくんが、おいって焦った様に成宮くんを小突いた。

青道のマネージャーはイケてるのが三人、ブス一人って言われていることくらい知っている。もちろん、ブスが私だ。それに関してはもうあきらめた。今更、顔の造りが変わるわけではないし、男子なんてそんなもんだし。

ただ、陰で言われているのは気に入らなかった。男らしく真正面から言えばいいのにって何度も思ってきた。だから、成宮くんの言葉に私は傷つくことはなかったし、人懐っこい感じのせいかなんだか憎めない。

「で、何?」
「愛想ないなー。ま、いいや。革手知んない? これの左手」

ひらひらっと目の前で革手袋をふってみせた。見覚えのある皮手袋に、ジャージのポケットから対の左手を取り出した。さっき、ベンチ裏を片づけていてみつけたのだ。

「おー、あった! サンキュー」

手を出す成宮くんに、待ってと制す。

「何」

不服そうにくちびるをとがらせる。なんだろう、さっきから成宮くんの話し方とか表情とか、どこかで見たことがある気がすごくする。

「これ、中指破れてるから」

ジャージのポケットから簡易のソーイングセットを出した。手袋を一旦、成宮くんに渡して、ソーイングセットを開けた。すぐに使えるように、白と青と黄色と黒―青道カラーの糸を通した針を用意してある。そのうちの白い糸が通っている針を取り出した。

「え、何、縫ってくれんの?」
「すぐすむけど、あ、稲実のマネさんがしてくれる?」
「いや、うち男しかいねーの知ってんでしょ」

そう話す間にも成宮くんから手袋を受け取って、裏返す。指の先だし、縫うのは少しだ。すぐにかがり縫いで仕上げた。

「はい。できたらちゃんと補強して縫い直した方がいいけど」
「おぉー、すげー。あっというまじゃん。いい母ちゃんになれるよ」
「そこは嫁じゃねーの」
「母ちゃんも嫁じゃん?」

よくわからない成宮くんとカルロスくんの問答に、あぁ!と気づいた。成宮くんの母ちゃんの言い方がそっくりだったのだ。

近所のいたずらっ子、年長さんのあっくんに!

そういえば、あっくんも私のこと面と向かってブスブスと言ってくる。 成宮くんにあっくんを重ねて、笑みがこぼれた。

「何、笑ってんの」

くちびるをとがらせる。うん、あっくんそっくり。

「似てるな~って思って」
「オレに? 誰が? あっ、ジャニーズでしょ。てごしって言われるよ! よく知んないけど」

なぜか得意満面の顔で言うのも、そっくりで。

「近所のあっくん」
「あっくん?」
「年長さんだけどね」
きょとんとする成宮くんの後ろでカルロスくんが大爆笑した。



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