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はらっぱ 小話

ブログで書き散らした小話やワンライのログなど。 夢っぽかったり日常的ぽかったり。

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メイちゃん*玄関先の攻防

幼馴染の鳴ちゃんと初詣に一緒に行かなくなったのは小学校5年生のときだ。鳴ちゃんがリトルリーグのチームメイトたちと行くから私とは行かないと言ったから。リトルのチームメイトには同じクラスの男子もいたし、知らない子ばかりじゃないから一緒に行くと言う私に鳴ちゃんは「女なんか連れてけるか」と一蹴したのだった。もちろん6年生のときも同じやりとりをした覚えがある。


中学生のときは、鳴ちゃんはシニアのチームに所属したまま、学校では陸上部だった。私は鳴ちゃんに自分が陸上部だから私も陸上部に入れと言われて、陸上部に入った。私は何かに秀でていたわけではないけれど、それなりに部活を楽しんでいた。部活でみんなで初詣に行こうねという話が出ていたから、私はすっかり鳴ちゃんも一緒だと思っていたのに、鳴ちゃんはシニアで行くから陸上部では行かなかった。

そして、今年。高校生になった今、私は同じ間違いはもうしないと、さすがに鳴ちゃんと初詣に行くことは考えてなかった。5年かけて学習したんだ、偉いねとは鳴ちゃんのお姉ちゃんのセリフだ。ちょっとひどい。

なのに、どうして。

目の前でむっつりと腕を組んでる鳴ちゃんがいる。そこにいられると玄関から出られない。すごい邪魔なんだけど。

「のけてよ~。待ち合わせに遅れちゃう」
「行かなきゃいいじゃん」
「約束してるの」

鳴ちゃんの横を無理矢理通ろうとするとしたけれど、鳴ちゃんの腕が私の前をさえぎった。壁に手をついて、私を見下ろしている。これってちょっとした壁ドンだなぁなんて、ちらっと頭をよぎった。

「じゃあ、オレは誰と初詣行くんだよ」

正月早々鳴ちゃん節炸裂。

「部活で行かないの」
「3日の練習初日にみんなでガッコの近くの行くんだから、わざわざ集まんねぇ」
「シニアとかリトルとかのチームメイトは」
「みんな自分のガッコのヤツと行くって」

なるほど。残ったのは私なんだ。勝手だよね。でもそれが鳴ちゃんだけど。

「だいたい、普通オレと行くって考えるだろ」

少し声のトーンが変わった。ため息までついている。普通に考えて今まで一緒に行ってくれなかったのが鳴ちゃんじゃない。

「5年かけて学習したの」
「はぁ?! 何それ」
「だって、ずっと行ってくれなかったから」
「それは、でも、今年はオレとって…普通そうだろ」

鳴ちゃんはまっすぐに私を見た。強くて意思のある本気の目。その目を向けられるとついほだされてしまう。わかった、じゃあ鳴ちゃんと行く、なんて言ってしまいそう。でもそんな訳にはいかない。部活で約束しているのだ。先輩だって来るのにドタキャンはできない。

「わかった、じゃあ、帰ってきたら鳴ちゃんと行くから」
「はぁ?! 何言ってんの。初詣じゃなくなるじゃん」

もうダメだ。これ以上玄関で押し問答していたら遅れてしまう。強行突破を試みた。

「あっ、テメェっ」

腕の下をくぐり抜けた私の首ねっこを鳴ちゃんは容易くつかんだ。服がひっぱられて首がしまる。苦しくて涙目になる私を見て、さすがに悪いとつぶやくように言う。けれど掴んでいた手は首元から袖口にうつっただけて離してはくれなかった。

そりゃあ、私だって鳴ちゃんと行きたいと思っていた。でも今までの経験が行けなかった場合のダメージを容易に想像させて、惨めな気持ちになって傷つくのが嫌で部活で約束したのだった。

だからこうして私と行くつもりで鳴ちゃんが来てくれたことは嬉しいんだけど、約束は破れない。なんでいつも上手くいかないんだろう。タイミングが悪いっていうことはそのまま相性が悪いってことなんじゃないかとさえ思ってしまう。

意味なく涙が出そうになるのをぐっとこらえると、気づいたのか鳴ちゃんは大きく息を吐いた。それと同時に袖口を握っていた鳴ちゃんの手が私の手を取った。昔から知ってるはずのマメだらけの固い手のひらは、知らない人みたいに大きくて息をのんだ。

「じゃあ、オレも一緒に行く」
「…えぇ?!」

なんでそうなるの。


見上げれば、得意満面の鳴ちゃんの顔が私を見ている。そして反論する間もあたえずに、私の手を引いて玄関を開ける。ひやっとした空気が前を行く鳴ちゃんの匂いを運んできて、落ち着かない気持ちになった。

「彼氏だーってちゃんと紹介してよ!」

ちょっとすねたような口調でそう言うと力任せにひっぱって、自分の腕の中に私を納めてしまった。

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