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はらっぱ 小話

ブログで書き散らした小話やワンライのログなど。 夢っぽかったり日常的ぽかったり。

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メイちゃん*ワンライ「横顔」女の子視点

夜の闇にぽっかりと浮かび上がる屋台の電燈に照らされた成宮に目を奪われた。ただ投げるという動作をこんなにきれいだと思ったことはなかった。


 夏休みもあと1週間で終わるという週末に毎年恒例の地蔵盆が公園で行われていた。地蔵盆は小学生がメインで、すでに中学生の私が楽しめるのはいくつかのゲームとおやつでもらえる凧せんくらいだ。それでも友達たちとこの夏最後のイベントとして、浴衣を着て出向いた。

「男子来てるじゃん」

 友達が賑やかな集団を指さした。見ればクラスの男子と他クラスの男子が剣の形をしたペンシルバーンで遊んでいる。みんな野球のユニフォーム姿だ。

「野球部…?」
「違う、違う。シニアでやってる子らじゃん」

 野球部とシニアの違いをよく知らない私に、男兄弟のいる友達が詳しげに言う。そして、いいこと考えたと私に笑った。

「さっきの的当て、あいつらにしてもらおうよ」

 中学生の私たちができる数少ないゲームの一つに的当てがあった。小豆の入った小袋を欲しい商品めがけて投げて、当たって台から落とせばもらえるというシステム。さっきみんなでしたのだけれど、私だけ取れなかったのだ。

 有無を言わさず、グイっと私をひっぱっていく。その先にいる男子の姿を見て、なるほどと納得した。友達がいつもいいなと言っている男子だったからだ。話すきっかけ欲しかっただけじゃないの。なんだかダシに使われたみたいで、ちょっとむっとする。

「あー、的当てな」
「ねー、やってよー」

 友達がねだるように男子に言うが、なかなかうんとは言わない。

「オレら、出禁なんだよね。的当ては」
「何で?」
「カンタンに当てちゃうからさ~」

 そう困ったように笑った男子は、ちょっと考えてから後ろで騒いでいる集団に振り向いた。

「鳴、ちょっと」

 その呼びかけに集団の中から私と同じクラスの成宮が剣の形をしたペンシルバルーンを担いでやってきた。陸上部だと思っていた成宮の野球のユニフォーム姿にちょっと驚いた。上は黒いシャツだけど白いズボンは泥だらけだ。

「なーに」

 成宮は少し不機嫌そうにくちびるをとがらせた。

「的当て、やってやってよ」
「はぁ?! なんでオレが! だいたい、出禁じゃん」
「でもほら、的当ての当番してるの、仁志さんだし。鳴にならさせてくれるかもよ」
「どうして?」

 思わず口をはさんでしまった。だって成宮だけ特別にさせてもらえるかもしれないのが不思議だったからだ。

 成宮は突然の私の声に、もしかしてと私の名前を口にして、顔をしげしげと見た。どうやら暗がりで私のことが誰かわかっていなかったらしい。同じクラスだってのにあんまりじゃない?

「あの人、オレのファンなんだよね」

 ふふんと成宮は得意げに笑った。その口の周りには凧せんのソースと青のりがついている。ファンだとかなんだとかの前に、口の周り拭きなさいよ。指さして指摘すると成宮はあわててシャツの首元で口の周りをぬぐった。

「私だけあのマスコット取れなかったんだもん。みんなおソロなのに」

 成宮の偉そうな態度に私も遠慮がなくなる。成宮の袖を掴んでマスコットを指さした。

「あんなの欲しいの。バッカじゃないの」
「うるさいなー。わかった、自信ないんでしょ」
「なっ! 誰に向かって言ってんの。このオレが取れないと思うわけ?!」

 思った以上に成宮は簡単に挑発に乗った。このオレがって言うくらいだ。よほど自信があるのだろう。見ててよ、と捨て台詞を吐いて、的当ての中の人に声をかけた。

「ねー、仁志さん、一回させてよ」
「鳴坊はダメダメ。ゲームになんないだろ」
「だって、コイツがオレの実力見たいってんだもん」

 と、成宮は私を指す。実力見たいとは言ってない。マスコットが欲しいだけなんだけど! だいたいそんなに野球がうまいんだろうか。運動神経は悪くなかった気はするけど、この中では小柄な方だし、いまいち信用できないんだけどな。けれど私のそんな考えをよそに仁志さんは他の誰よりも鳴坊じゃ反則だろうとうなっている。

「うーん、でもなぁ」
「一回だけ、一回だけ。一発で落とすしさ。オレが投げるの間近で見れるんだよ」
「言うなぁ。しょうがない。一回だけだぞ」

 根負けしたのか仁志さんは成宮にゲーム券と引き換えに小袋を手渡した。成宮は私にペンシルバルーンを押し付けながら、小袋を2つ返そうとする。

「3つもいらないよ」
「一応な」

 その一応が気に入らなかったのか、成宮の顔つきがすっと変わったのに私は気づいた。成宮は教室で先頭きってバカする男子だ。少し小柄だし、そんな子供っぽい成宮をクラスの女子は、私もだけど、男としてみなしていなかったのに。初めて見る真剣な表情に知らずに私は息をのんだ。

 左の手の中で小袋の感触を確かめると、成宮はちらりと私を見た。挑発的で自信に満ちたその目に私の胸が高鳴った。思わずぎゅっとペンシルバルーンを握り締めた。それに気づいたわけではないだろうけれど、成宮は目を少し細めた。それと同時に無造作に小袋を投げた。

 シャリっと小豆がこすれる音が、妙に耳に残った。

 成宮の左腕がすっときれいに円を描いたと思ったら、もうマスコットは台から落ちていた。

「すごい!」

 思わず飛び上がって喜んでしまった。成宮はイエーと他の男子しハイタッチしている。仁志さんもさすがさすがと拍手だ。

「見たか」

 成宮は得意げに仁志さんから渡してもらったマスコットを私に差し出した。

「うん、うん、ありがとう! すごいね! かっこいい!」

 私は興奮のあまり自分がさらりとかっこいいと言っていることに気づいていなかった。成宮はちょっと口元をゆるめて、ペンシルバルーンを私から受け取ると他の男子たちの元へと戻っていく。

 手の中のマスコットを見て、心の中にまだ成宮が残っている自分に気づく。振り返ると、成宮はもう私のことを忘れたかのように男子たちと盛り上がっている。決して大きくはないその背中をしばらく見つめた。

 振り向いてよ。

 そんな私の願いはむなしく、成宮が振り向く気配は微塵もなかった。残念に思いながら、それでも手の中のマスコットに満足して私も、先に行く友達の輪に戻った。

 その少しあとに、成宮が私を振り返って見ていた事実を、私はもちろん知らないままで。
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