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はらっぱ 小話

ブログで書き散らした小話やワンライのログなど。 夢っぽかったり日常的ぽかったり。

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全力で姉*ワンライ「横顔」

夜の7時を過ぎているのに、公園が賑やかだ。よく見れば、テントがいくつか建っていて子供たちがたくさんいる。休日出勤ですっかり忘れていたけれど、今日は地蔵盆だったのだ。

 家へと帰る足を少し止めて、外から公園の中を懐かしく感じて眺めていた。と、賑やかな集団に中学生になる弟の姿をみつけた。何人かの男の子と一緒にいる。弟の鳴もみんなも、上半身は黒のアンダー姿の汚れた野球のユニフォーム姿だ。シニアの練習後にそのまま地蔵盆で遊んでいるんだろう。

 地蔵盆は基本的に小学生のものだ。中学生は一部のゲームとおやつの凧せんをもらえるくらいなのに。剣の形をしたペンシルバルーンまで手にしてる。中学生にもなって恥ずかしいったら。

 ふいに鳴たちの集団に女の子たちの集団が寄ってきた。女の子たちは浴衣を着たりして、また違う意味で地蔵盆を満喫しているようだ。そういえば私も浴衣着て、ゲームもせずに、いつもと違う公園の雰囲気を楽しむようにただ友達と喋っていたっけ。

 鳴は女の子の集団に目もくれずにペンシルバルーンをバットのように振り回して遊んでいる。男の子たちは鳴に付き合っている子と、女の子の相手をする子に二分された。鳴はまだまだお子様側のようだ。

 女の子の相手をしていた一人が鳴に何か話しかけた。その横には浴衣姿の女の子たちがいる。的当ての方を指さしてしきりに鳴に何か言っている。たぶん、鳴に投げるように言っているのだろう。

 ペンシルバルーンの剣を肩にかつぐようにして、しぶしぶといった風情で鳴は二人について、的当てのテントに向かう。

 なんだか、面白くなりそうな気がして、的当てが良く見える位置まで私も移動した。

 的当ては小豆が入った小袋を並んでいる商品に当てて、台から落とせば商品がもらえるゲームだ。

 鳴のコントロールなら当てることは造作ないことだろう。ただ小豆の小袋は軽いので商品を台から落とすのは難しいかもしれない。

 浴衣の女の子が鳴のアンダーの袖を引っ張って、もう片方の手で商品を指す。そんな女の子のかわいい仕草に鳴は何とも感じないのかな。

 鳴が女の子に何か言っている顔が見えた。ちょっとかっこつけてるのか、いつもの豊かな表情はしまわれている。その様子が弟の成長を垣間見たようでなんだかくすぐったい。

 でもその口の周りにたこせんのソースと青のりがついているのが見えた。情けないなぁと思うと同時にまだまだ私の知っているかわいい弟の鳴らしくて、ほっとする。

 女の子も明るいところにきたせいで気がついたのか、鳴の口元を指さす。鳴はちょっと動揺したようにアンダーの首元を口までひっぱって、口をぬぐった。それ、お母さんが知ったら怒るだろうな。

 ゲーム券を的当てのスタッフに渡すと、何か言われたようだ。浴衣の女の子を指して鳴が何か言うとスタッフは仕方ないという顔をして小豆の小袋を3つ鳴に手渡した。鳴はペンシルバルーンを浴衣の女の子に持たせると、小袋を1つ手にする。何度か感触を確かめるようにしてから、案外無造作に投げた。

 スパっと心地いい音がして、小さいなマスコットのついたキーホルダーに小袋が当たって台から落ちた。

 浴衣の女の子は飛び上がって喜んでいる。

 一発で落として面目躍如といったところか。イエーとシニアのチームメイトたちとハイタッチしている。

 3回投げれても商品は一つしかもらえないシステムなので、鳴はもう投げずに残った2つをスタッフに返した。

 周りで見物していたおじさんたちの、さすが鳴坊なんて声が聞こえてくる。今更ながら、ちょっと鼻高々だ。

 鳴はキーホルダーをスタッフから受け取ると浴衣の女の子に渡す。ありがとうと喜ぶ女の子を尻目にペンシルバルーンを返してもらうとシニアのチームメイトの方へと戻っていく。

 女の子は大事そうにキーホルダーを両手で包むようにして、自分も友達の輪へと戻る。ふと、足を止めて鳴を振り返った。しばらく鳴の背中を見ていたその子は、少しさみしそうに、また友達へと向き直った。

 はたして、そのキーホルダーが欲しかっただけなのか、鳴に取ってもらったことが大事なのか。私にはわからないけど、きっと後者じゃないだろうか。それとも最初はキーホルダーが欲しかっただけだったけれど、取ってくれた鳴がかっこよかったから気持ちが動かされたのか。まぁ、口の周りをソースで汚しているような子があんなに簡単に取ってくれたらびっくりもするだろうけど。

 鳴は地域のシニアに所属しているので中学校では陸上部だ。野球する鳴を学校の女の子たちが知らないのも仕方ない。きっと知っている鳴の姿は今日のペンシルバルーンで遊んでいるような教室でバカやっている姿だろうし。

 いいもの見たと帰ろうとしたとき、鳴が振り返っている姿が目に入った。浴衣の女の子を目で追っているようだ。しばらく見ていた鳴は、ふと顔をほころばせた。喜んでいる彼女の姿に思わず顔がゆるんだように見えた。いつもの、どうオレすごいでしょ的な得意満面な顔ではなくて、愛おしさが含まれているように感じられるやわらかさで。年の離れた弟が女の子にそんな顔をするのを見る日がくるなんて思いもしてなくて、私はドキッとした。

 わが弟ながら、いい男に育ってんじゃないの。

 またまだお子様だと思っていた弟の成長ぶりに自然と笑みがこぼれた。気分よく家へと足が向かう。

「あれ、帰り?」

 いつのまにかシニアのチームメイトと公園から出てきていた鳴と出くわした。チームメイトの子たちは私の顔を見て「ちわっ」とあいさつする。それに会釈して鳴に向き直る。

「地蔵盆だったんだねー」
「うん、見て、射的でパーフェクト!」

 そう言うとおやつがぎっしり詰まった袋を掲げてみせる。へへーと得意満面な顔だ。

「的当てはしなかったの?」

 していたのを見ておきながら聞いてみる。だって何て答えるか気になるし。鳴はついっと目をそらした。

「的当てはオレらはさせてもらえねーの」
「え、できなかったの?」
「うん、野球してたら当てれて当然だからって」

 私はほかの子たちを見る。みんな鳴が女の子にしてあげたのを知っているくせに、うんうんと口々にさせてもらえなくてって言う。男同士の結束みたいなものを見せられた気分だ。

「そうなんだ」

 そういえば、的当てをする前にスタッフに何か言われてたのを思い出した。ほんとはダメなんだぞーとか言われてたのかな。女の子のためってことできっと、スタッフもOKしてあげたんだろう。

「腹へったー」

 私の視線から逃れるように鳴は先に歩く。その横に追いついて、いつのまにか私よりも少し上にある顔を見上げた。その横顔はまだ私の知っている弟の顔だけど、今日のように少しずつ、知らない男の子の顔もするようになるんだろうなと思うと少しさみしくなった。

 「何?」

 じっと見る私にいぶかしむ。そんな鳴の首元を指した。

「ソースと青のり。そんなとこつけてたらお母さんに怒られるから」
「げっ!」

 慌てて、手でゴシゴシと首元をこする。そんなことしたって取れないっていうの。

「誰かとぶつかったときについたのかも」

 よく言う! あきれてため息をついたら鳴がねぇねぇ怒られないようにかばってよと拝むように私に手を合わせた。まったく、いつまでも私にとっては手のかかる弟なんだから。
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